とらのふくやさん

森のおくに小さなトラのお家がありました。
そこにはお父さんとお母さん、トトとララという女の子がすんでいました。
お父さんはどんなに疲れていても子どもたちをだっこしてくれましたし、お母さんは何回も何回もすべり台をすべる子どもたちをニコニコしながら待っていてくれました。
子どもたちはそんな力持ちのお父さんとやさしいお母さんが大すきでした。


しかし残念なことにトラのお父さんは病気になってしまいました。トトとララが
「お父さん、早く元気になってね」と声をかけると
「あぁ。元気になったら、肩車でまた散歩に行こうな」と言ってくれました。
しかし、お父さんは元気になることはなく、とうとうお空のお星さまになってしまいました。
お母さんと子どもたちはお父さんに会えなくなってしまったことが悲しくて、いっぱいなきました。
なみだが空っぽになるくらいなきました。
いっぱいないたからでしょう。
子どもたちのお腹が『ぐうー』となりました。
ご飯を食べることもわすれてないていたのです。
お母さんはやさしくわらって言いました。
「これからは、お母さんがお父さんの分までがんばるわ」


お母さんは毎日仕事に行くことになりました。
朝早くからそうじやせんたくをして、朝ご飯を作り、子どもたちを保育園に送った後、走って仕事に出かけます。
仕事中も汗をかきながらがんばります。
夕方がくると、子どもたちのむかえに行って、ご飯を作って食べさせ、おふろに入れて、子どもたちと布団に入ります。
いっしょじゃないと子どもたちが寝ないからです。
そして最後に台所をかたづけ、せんたく物をたたんで、明日の準備をするのです。


今日も朝が来ました。
「おはよー。朝ですよー」お母さんが起こしても、子どもたちは反対を向いてムニャムニャムニャ。
昨日の夜、お母さんの取りあいっこをしたり、すぐにねなかったから、まだまだねむたいのです。
いつもだっこで起こしてもらうあまえんぼう。
朝ご飯を食べていると、うっかりおみそしるをこぼしてしまいました。
やっと着がえが終わったかと思ったら、シャツもズボンも前と後ろが反対のへんてこりん。


お母さんはため息をついて
「服が反対!早く!いそいで!」とうとうおこりんぼうお母さんになってしまいました。
でも、トトとララはお母さんをおこらせようと思って、服をへんてこりんに着ているわけではありません。
気がついたら前と後ろが反対になっちゃうのです。
とうとうトトの目からなみだがポロリ。
「あーあ。また着がえなおし。イヤになっちゃう。前と後ろなんかない服があったらいいのに」とララが言いました。
ちょうどそこを通りかかったお母さん。
前は子どもたちがどんなに失敗をしても楽しかったのに、今はおこりんぼうになってしまっている自分を残念に思いました。
けれどすぐニコニコになりましたよ。その夜、お母さんは子どもたちがねむった後、せっせと何かを作り始めました。
朝がくると…


「やったー。新しいシャツとズボンだー」トトが言うと、
「ちょっとがんばって作ってみたのよ」とお母さんがうれしそうに言いました。
「すごーい!着てもいい?」とうれしそうなトトとララ。
「えぇ。もちろんよ」トトとララは、いつものようにお母さんが作ってくれた服を着ました。
「トト!ララ!とっても上手に着がえたわね」お母さんがばんざいをしています。
トトとララもビックリ。
「ほんとだ。いつも前と後ろ、へんてこりんなのに」
「うふふ。お母さんね、へんてこりんにならない服を作ってみたの」
「えー?へんてこりんにならない服?」子どもたちが目をまんまるくして言いました。
「そうよ。前と後ろの形が同じなの。これならぜったいへんてこりんにならないわ」と言って、お母さんはトトとララをぎゅーっとだきしめました。
トトとララのほっぺたがさくらんぼ色になりました。


『ピンポーン』
おこりんぼうお母さんからニコニコお母さんにもどったころ、お家にお客さんがやって来ました。
「はーい。どなたですか?」
「となりのライオンです」お母さんがドアをあけると、ライオンのお母さんが立っていました。
「うちの子どもたちが、トトちゃんララちゃんみたいな服が着たいと言ってきかないんです。うちの子たち、シャツやズボンを前後ろ反対に着てばかりで…。私もいそがしいから、ついおこってしまい、後になっておこったことにがっかりするんです。でも次の朝はまた同じくりかえしで…」
「分かります。分かりますよ。私も同じでしたから。ライオンさんの子どもさんの服も作ってあげましょう」
実は保育園のお友だちが「トトちゃんララちゃんみたいな服がほしいよー」と、お母さんたちにお願いしていたのです。
次の日はシマウマのお母さんが、また次の日はとなり町のゾウのお母さんが服の注文にやって来ました。


スーパーマーケットではお母さんたち同士、トラのお母さんが作った服をきると、子どもたちが上手に着がえられることはもちろん、自分たちのおこりんぼうがニコニコになるという評判も広がりました。
とうとうお家の前は大行列。


ある日、ちょっと変わったお客さんがやって来ました。
薬の研究をしているサイの博士です。
「すみませんが、大人用も作ってもらえませんでしょうか。私は薬のことばかり考えているので、服の前と後ろを反対に着ていることがよくあるのです。私は別にそれでいいのですが、家族がため息をついていて…」
「分かります。分かりますよ。子どもとお母さんだけではなく、みんながニコニコになる服となったらうれしいです。大人サイズは初めてですが、まかせてください」お母さんは大人用の服も作るようになりました。


また遠い国から手紙も届きました。
『仕事中、空からすてきな服を見かけました。毎朝親子で着がえが大変です。ぜひ、うちの子どもたちの服も作ってもらえませんでしょうか。
北の国からトナカイのお父さんより』
「まあ。外国からの注文なんて初めて。でも、どこのくにでも同じはず。ゆうびん屋さんに届けてもらいましょう」
トラのお母さんは世界中みんなのほっぺたがさくらんぼ色になること願いました。
そんなトラのお母さんのほっぺたもさくらんぼ色でした。


トラのお母さんはこの『世界中、みんなのほっぺたがさくらんぼ色になる服作り』を仕事にして、今も子どもたちと毎日楽しくくらしています。
あなたもトラのお母さんの服、きてみたいとおもいませんか?
きっとあなたたち家族のほっぺたも、さくらんぼ色になることでしょう。

おわり